今回のSmartBank.fmは、シリアルCEOのshotaさんに話を聞く「シリアルCEO Voice」連載の1回目です。「1回目の起業から学んだ“事業作りの型”」をテーマに、shotaさんの視点をお届けします。起業家やスタートアップで働く人のお役に立てたら嬉しいです。
このインタビューに出てくる人
書き起こし
オープニング
今回は、シリアルCEO Voiceという新しい連載として、私、広報のchikaがシリアルアントレプレナーのshotaさんに話を伺っていきたいと思います。
シリアルアントレプレナーのメリット・デメリット
シリアルの良いところは、前回なんらかの形である程度成功しているので、そのときに支えてくださった方の信頼残高があることです。わかりやすい例で言うと、VCの方に投資していただいて、ある程度大きな資金をお返しできたという信頼ですね。なので、お金に関しては、まだ動くものがなかったりプロダクトの価値が検証されていない状況だったりしても、大きなバリエーションをつけてもらってガッツリ資金調達できるみたいなことは結構あるかなと思っています。自分の周りでも、プロダクトがまだない状態で大きく調達する人が結構多かった気がしますね。お金のところは、過去の信頼残高をフックになんとかできるというのがあります。
人の話でいうと、SmartBankが創業して最初の頃に集まってくれたメンバーは、過去に起業していたとき一緒に働いてくれていた腕利きのメンバーでした。前職で長い間働いていて、実績もしっかり分かっていて、かつ自分たちがプロダクトをつくるスタイルにも共感が高い人たちが来てくれたのが大きかったです。プロダクトをつくった実績のない人が人を集めたいと思ったときに、優秀な人をたくさん取るのは難しいと思うんですけど、うちの場合は 過去に働いてた人がまた仲間になってくれたので、人のところはそれでクリアできたのが大きかったです。
どのシリアルでもこの2つは共通するポイントかなと思います。
勝てる市場の選び方
1つ目は、僕がコンシューマー向けのプロダクトをつくることが多いからっていうのもあるんですけど、事業をつくる時にN1のインタビューを深掘って、特定の状況で発生する特別な課題を解決することにフォーカスしていることが多いですね。 この「イシューから始める」みたいなところは強く意識しています。
過去に僕がプロダクトをつくっていたときって、自分の妄想ベースでつくることが結構多くて。海外でこれが流行っているとか、こういう課題があるだろうみたいな思い込みでつくることが多かったんですけど、思い込みでつくったら誰にも使われないプロダクトができてしまった、みたいな経験があったんです。なので、フリマアプリのときはユーザーインタビューをしっかりして、 「女子大生の方がブログやmixiで服を売っている」という特別なインサイトに気付いて。ブログで服を売るって、めちゃくちゃ不便な行為だったりするので、それをうまく解決できるプロダクトを作ったらすごく使われたっていうのが成功体験の一つだったりします。今回はフィンテックという違う市場でプロダクトをつくっていますが、プロダクトをつくるときは「イシューから始める」を意識してやっています。
フリマアプリの時はたまたまだったんですが、ちょうどスマホが普及するタイミングで長期に張れたというのがあります。モノを売る行為って、昔はPCを持ってないとできなかったり、ガラケーでもパケホーダイに入っていてインターネットをバリバリに使えたりする人でなければできなかったと思います。それが、スマホの普及で誰もがインターネットに接続できるようになりました。写真を撮るだけで簡単にモノが売れるようになったのはスマホの普及がポイントだった気がするので、そういった変化にうまくハマれて伸びたのが結構大きかったです。プロモーションするだけで勝手に伸びたので、特別なことをしたりとかもあんまりなかった。 そういう上ってるエスカレーターに乗れるかがポイントかなと思ってますね。
今回はカード決済の領域でチャレンジしてるんですけど、今の事業にベットしようと思ったとき、日本がこれから必ずキャッシュレス化するだろうなっていうのはなんとなく分かっていて。僕らが事業参入するとき、日本のキャッシュレス比率が 10%以下だったのが、3〜4年で30%くらいまで普及しているんです。国がキャッシュレスを推進しているので、日本は必ずキャッシュレス化が進むだろうというのがありました。あと、我々は今回、資金移動業っていう金融のライセンスを取得して事業をやっているんですけど、その資金移動業っていう免許の法改正がされて、今までできなかったことができるようになりました。最近だと、デジタル給与とかがこれから成立するだろうな、みたいなのもあります。この2つは調べられる範囲で調べていました。
あと、この事業を始める前に、キャッシュレスがめちゃくちゃ普及してる国はどういう状況で、どういう課題があって、どういう問題解決のプロダクトがあるのかっていうのを見たいなと思って、3か月間ぐらいイギリスに行ってきたんです。イギリスはキャッシュレス比率が8割を超えていて、日本と比較しても、国民の数、経済規模、島国と、そこまで大きな違いがなかったんで、ちょっとした未来を見てくるというか、「日本のキャッシュレス化が進んだ未来を体感してみよう」ってなったときにちょうどよかった。公共交通機関がクレジットカードやデビットカードで乗れて、不便だった問題はこういうプロダクトが解決している、みたいなお手本に近いものが学びとして得られたので、そういうフィールドワークを通して学んできたというのもありますかね。
フリマアプリのときは、基本的にはアプリのUIをパクればクローンのアプリをつくれましたが、フィンテックは参入して事業を始めるのにまずライセンスを取る必要があるんです。それと、今回やっているカード決済とアプリの事業では、カードを発行したりカードで決済したり、そういうカード決済の裏側ですね。うちはVisaのカードを発行しているんですけど、Visaのネットワークと接続して、決済でいうプロセシングのような裏側の仕組みまで作ったので、フロントだけ真似してもできない事業というところで、エントリーバリアとしてそこが強く働けばいいな、と思って選んだのもあります。
事業を伸ばすポイント
これは持論になるんですけど、C向けのプロダクトって、ひとたび人気がつくと新規参入がドッと始まります。プロダクトの数が少ないときは、ユーザーもプロダクトの機能の利便性で判断して手に取って使ってくれるんですけど、新規参入が始まって同じようなプロダクトが溢れてくると、どれを使っても結局ユーザーの価値体験はあまり変わらないよね、となります。そうすると、プロダクトを選ぶ理由が、そのサービスを使うとほかのサービスより経済合理性が強く働くか、もしくはその業界の中で認知度がいちばん大きいか、になります。前者でいうと、手数料がダタとかポイントのキャッシュバックがあるとか。後者だと、CMがよく放送されているとか。そういう勝負に移ってくるので、C向けのお作法でいうと、前半ではエッジのとがった機能の利便性が高いものをつくって、後半は経済合理性を生み出すか認知度で勝つということになってきます。前半は、開発力や創業者の創発的なアイデアで勝負できますが、後半は、人と金でどれだけ殴れるかの勝負です。特に経済合理性や認知度は、お金の殴り合いで勝てるかどうかの勝負ですよね。開発力がめちゃくちゃ高いとか、ユーザーニーズを汲み取っているとか、開発のスピードが速いとかもすごく重要なんですけど、 最後は「金をどれだけ持てるか」というシンプルな戦いになるので、「資金調達がうまい会社が勝つ」というのは、C向けのルールとしてあるかなと思っています。
事業の話でいうと、フリマアプリって「Winner takes all.」の市場というか、やっぱりマーケットプレイスの事業なので、売り買いされる規模の数がゲームの勝負に直結するというのもあって、とにかくユーザーを増やすことが重要だったりするんですけど、その構造をちゃんと把握できていなくて、ユーザーにとって利便性の高いプロダクトさえつくっていれば勝てるだろうと思って戦ってたんです。コモディティ化が始まって、最後は金の殴り合いになるというところが理解できていなかったので、プロダクトをめちゃくちゃ磨きにいってたんですけど、実は売り手の数を最大限伸ばすのが重要なゲームで、お金を大量に集めるほうが重要だった。そういう構造をちゃんと理解した上で勝負することが大事ですね。
参入する前にそれを理解するのは難しいと思うので、「いま戦ってるゲームの構造ってどうなってるんだっけ?」みたいなものを、その事業にエントリーしながら学んでいく必要があるし、それをしっかり認識して資源を投下していかないと、と思ったりしましたね。
SmartBankが向き合う市場と勝ち筋
勝ち筋みたいなところに触れると、前のフリマアプリがマーケットプレイスの事業で、売り手と買い手の規模を追求するゲームだった話と似てるんですけど、いま我々がチャレンジしている家計を共有するプロダクトも、基本的には「Winner takes all.」の構造に近いと思っています。どういうことかというと、そもそも家計管理のプロダクトって、市場に複数のサービスがあったとしても、全部使ったり3個同時に使ったりするのがあり得ないかなと思っていて。 フリマアプリは、一番手、二番手くらいであればユーザーが使い分けることもあったと思うんですけど、家計管理のプロダクトを複数使ったり、うちでいうペアカードやジュニアカードのような商品を複数使うのってかなり考えにくいモデルなので、基本的には一社しか勝たないモデルかなって気はしていますね。
かつ、誰かと共有口座をつくるプロセスがプロダクトの中にあって、そこがはっきりとした強みだったりもするので、基本的には先行逃げ切りというか、先にうちの口座を開けてもらってカードを使ってもらうっていうのが重要なポイントかなと思います。なので、早めに認知を取ったり、これからの共働き世帯などに早く展開して、競合相手をブロックすることが重要かなと思っていて、そこは意識してますね。家族にフォーカスして始めているのも、共有口座を作ってもらう意味もあるし、1回作ってもらえたらスイッチする理由が生まれにくいものかなとも思ったりするので、そういう強い部分から始めて、この1、2年でそれらを強化する戦略をとっているのもポイントの一つだったりします。
僕らはフィンテックの事業を始めてまだ今年で4年目なので大それたことは言えないんですが、フィンテックの事業って、特にコンシューマ向けは、TAMを作りやすい構造なんじゃないかなって勝手に思っています。どういうことかというと、フリマアプリをやっていた時は、売り買いする規模をどんどん大きくしていくしかなかったというか、最初は女性向けの服を売るマーケットプレイスから始めて、男性もできるようにしたり、エンタメの商品を取り扱えるようにしたり、転売ヤーの方が使ってくれたりとか、売り買いする機能は変わらず、使われる人とモノが増えてTAMが大きくなった形でした。今はメルカリさんでいうとメルペイとか、僕がやってたときは楽天ペイみたいに、決済につなげる形で大きいTAMをつくれたりもするんですけど、フィンテックの事業はTAMを作る上で、ユーザーに積み重ねがしてきやすいなと思っているんです。
ユーザーのお金の問題って結構たくさんあるし、お金の心配事は多分尽きないと思うんで、いまある機能の利便性で手に取ってもらって、そのプロダクトを使い続けてくれた時に、たとえば、お金が足りないみたいな心配があれば、将来的な健康やお金の問題に関して、保険に入って手当てしたいとか、投資の商品を使ってお金を増やしたいとか、アップセルしやすい商材が、コモディティにはなるかもしれないけど結構あったりするので、ユーザーに機能を気に入って使ってもらって、どんどん追加提案をしていって、それによるTAMみたいなのは作りやすいんじゃないかなと思っています。
toC市場を選ぶ理由
エンディング
それではまた次回のSmartBank.fmも楽しみにしていてください。shotaさん、ありがとうございました。